島の医者
広い海を一隻の船が走っていた。そこには、新しく志木那島の医者になる五島健助が乗っていた。
定期船が故障したため、原剛利の漁船になってしまったと説明する星野正一は、村役場の課長だと話す。
船に乗る間、色々話しかける正一だったが、健助は船酔いでそれどころではなかった。
剛洋に名前を聞かれた健助は、船酔いで上手く話せず、剛洋は「コトー」と聞き間違えてしまう。
一緒に同乗していた剛利の息子剛洋も、具合が悪そうにしているのを見た剛利は「情けない」と叱るのだった。
ようやく島に着くと、すぐに島の老人が亡くなったと連絡があり死亡診断書を書かされる健助なのであった。
その後診療所に向かう車の中で、島で亡くなると本島から来る医師を待つか本島に行かなければならないと説明されるのだった。
応急処置のため
健助の働く場所である、島唯一の診療所に到着すると、正一の娘で看護師の彩佳と役場の職員で、ここの事務員の和田がいた。
古びた作りの診療所は、海が見える高台に建っており、いかにも街の診療所という雰囲気をかもしだしていた。
診療所内を見て回った健助は、設備の不十分さや、薬の少なさに驚いていた。
そして彩佳に、これでは応急処置程度しかできないのではと聞いたのだが、彩佳はここではそれくらいでいいと話す。
本島までいく間の繋ぎになればいいのだと、島民じたいが島に来る医者には期待していないのだと冷たく話すのだった。
勇気試し
剛洋は、同級生の邦夫たちに勇気試しとして光る石を隠すから、一人で取ってこいと言われていた。
お腹をさすりながらも、断ることができずに、邦夫たちが光る石を隠しにいく姿を見送るのだった。
その夜、健助は海風にあたるために診療所の外に出ると、近くのスナックを経営する茉莉子に出会う。
茉莉子は家に飲みに来るようにと腕を引いていたが、そこで邦夫たちを見つけて後をつけていた。
海辺の岩場に石を隠すところを見た茉莉子は、危ないと叱っていると、それに、驚いた邦夫たちは慌てて逃げるのであった。
それでいいんですか?
和田は、車の免許がない健助のために古い自転車引っ張り出して整備をしていた。
健助も設備が足りないなら作るといいながら、採血台を作っているなどいつでも患者を迎えられる準備を進めていた。
それを見た彩佳は、絶対に使うことはないですよと、冷たい視線を送るのだった。
診療時間が来ても誰も来ないことを疑問に感じた健助だったが、皆健康な証拠だと話していた。
しかし実際は、島に来る医者が長く居着かなかったり、雑な診療をしていたせいで、島民全員から信用されていないのだと聞かされる。
彩佳もそう思っていると伝えられるが、健助は彩佳にそれでいいんですか?と聞いていた。
彩佳もこのままではダメだと感じていると話すのだが、これまでの経験からすぐに健助を信用できないと話すのだった。
弱虫は嫌いだ
剛利の家では、遅く起きてきた剛洋に、夜遅くまで本なんか読んでるからだと叱っていた。
すると、お腹が痛いから学校を休みたいと話す剛洋に、そんな理由で学校は休ませないと厳しく叱るのだった。
学校へ行った剛洋は、終始元気がなく、さらに勇気試しが今日決行されることを邦夫から伝えられる。
すると剛洋は、お腹が痛いから延期して欲しいと頼むと「卑怯もの」と邦夫から言われてしまう。
反論しようとするのだが、今日絶対に取ってこいと言うと走り去って行くのだった。
張り切ってるんですよ
正一は、健助の様子を伺おうと診療所に来たのだが、健助の姿が見当たらない。
すると海を眺める健助を見つけた正一は、大声で健助を呼ぶのであった。
正一は、こんな離島の劣悪な環境に呼んでしまったことを謝っていた。
そして、この島の中で救える命があるならば、全力で命を救いたいと熱く語りかける。
すると健助は、戻る場所がないですからと話し、和田が自転車を修理してくれたことがとても嬉しかったと話す。
そして、こう見えて張り切ってるんですよと笑顔で言う健助にほっとする正一なのであった。
剛利の本音
その夜、時間になっても現れない剛洋を心配した邦夫は、石を隠した場所に向かっていった。
すると石を握りしめうずくまる剛洋の姿を発見し、慌てて茉莉子の店へと剛洋を運ぶのだった。
連絡を受けた健助は、茉莉子の店に向かい剛洋の病状を確認する。
そこに剛利が現れると、剛洋は急性虫垂炎だと診断し、自分が手術をすると伝えていた。
すると剛利は、今から本島に向かうと剛洋を抱き上げ、店を出ようとしていた。
しかし、健助は6時間も船に乗せることは、剛洋の命も危ういと止めるのだが、剛利は島に来た医者は信じないと話す。
それでも引き留めようとする健助に、島に来た医者に妻が殺されたのだと言い放ち、出ていくのであった。
本島まで付き添います
剛利が出ていったあと、茉莉子にさっきの話が本当なのか聞いてみると、黙って頷くのだった。
すると健助は、邦夫にメモを渡し、これを彩佳に港まで持ってくるようにお願いするのだった。
そして茉莉子には和田に連絡をして港まで来るように伝えて欲しいと言って自転車に股がる。
すると邦夫が絶対に剛洋を助けて欲しいと泣きながら健助に頼んでいた。すると、絶対に助けるよと邦夫と指切りして健助は港へと急ぐのだった。
ちょうど剛利の船が出るところで、頼まれたものを持ってきた彩佳と和田の3人で船に乗り込む。
煙たがる剛利に、この島の医者として、本島まで付き添いますと強く伝えるのであった。
剛利と妻の話
船上で剛洋に点滴をするなど、健助の懸命な処置が続いていたが、剛洋の容態は良くならない。
すると和田に耳打ちをする健助の話に、驚く彩佳だったが、健助の決意は固かった。
そして立ち上がる和田は、剛利の横に立つと船の鍵を抜き健助に渡すと、健助は海に投げ入れてしまう。
怒った剛利は、健助の胸ぐらを掴みものすごい勢いで捲し立てる。
すると健助は、剛洋の容態からこの場で手術しないと剛洋の命が危ないと伝えていた。
それでと島の医者は信用できないと、剛利は亡くなった妻の話をするのだった。
剛利の妻は、ある病気にかかっていたのだが、当時の島の医者からはただの風邪だと診断されていた。
本島の病院で検査を勧める剛利だったが、大丈夫だと言い続けた妻が、心臓病で亡くなったと話す。
それ以来、島に来る医者を信じることができないのだと話していた。
船上での手術
そんな時、苦しそうな声で「お父さん」と呼ぶ剛洋の声を聞き、健助の必死な説得によりこの場での手術を許可される。
暗い夜の揺れる船上での手術は、困難を極めていた。
しかし、和田や剛利の協力もあり手術を無事成功させた健助は、剛洋の痛みが想像を絶するものだったと話し、よく頑張ったと頭をなでるのだった。
そして、剛利に船の鍵を返し、さっき捨てたのは診療所の鍵だと説明するのだった。
すると朝日がのぼりはじめ、健助たちの顔を明るく照らすのだった。
ドクターコトー診療所
数日後、退院した剛洋に情けないと言ったことを謝る邦夫であった。
そして、健助の診療所に向かった2人は診療所の旗を作ったと自慢げに健助に話す。
そこを通った近くのおばさんから、今度の医者は魚同様、船で人をさばく医者だと噂話を口にする。
苦笑いする一同は、記念写真をとることになるのだった。
その写真に写った旗には「ドクターコトー診療所」と書かれているのだった。